免疫系の毒性学的評価(免疫毒性学)を提唱 1974年〜|「生命と微量元素」講座<荒川泰昭>

「生命と微量元素」講座

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免疫系の毒性学的評価(免疫毒性学 Immunotoxicology)を提唱 1974年〜

 東京大学医学部衛生学教室の教官に就任し、予防医学の研究に関わり始めたが、昭和49年(1974年)以後は、とくに社会的時代の要求もあり種々の公害問題に関わることになった。そこでの中心的概念ならびに手法は中毒学であり、リスクアセスメント確立のための毒性学(トキシコロジー)であったが、一連の環境問題を扱う過程で、免疫系では化学物質過敏症、花粉症、アトピー性皮膚炎などの発症要因が、また脳神経系ではパーキンソン氏病、アルツハイマー病などの発症要因が、また内分泌系では海洋生物の生殖異常など、すべての異常の発症要因が環境化学物質の微量・長期暴露(潜行型環境汚染)によるものではないかと疑い始め、これからの予防医学は「後追い対策」ではなく「前向き対策」が必要であり、健康阻害要因を検索、評価する手法としての毒性学も従来の大量・短期暴露でのLD50レベルの「一般急性毒性学的評価」ではなく、潜行型環境汚染の如く、「微量・長期暴露での慢性毒性学的評価」が必要であることを感じ始めた。そして同時に、その毒性評価も一般毒性のレベルではなく、脳神経機能、免疫機能、内分泌機能など生体機能別に検索、評価することが必要であることを感じ始めた。

 そこで、リスクアセスメント確立のための毒性学(トキシコロジー)を教室の主要テーマとして、脳神経機能、免疫機能、内分泌機能など生体機能別に検索、評価する学問体系の構築を目ざし、毒性学領域に脳神経毒性学(brain-neurotoxicology)、免疫毒性学(immunotoxicology)、内分泌毒性学(endocrinotoxicology)の概念を提唱した。1974年におけるこれらの生体機能毒性学(biofunctional toxicology)の命名や概念は日本において最初である。

 そして、当初より将来5年〜10年以上先の環境問題を予測して選択し取り組んだ有機スズの研究において脳神経機能、免疫機能、内分泌機能など生体機能が選択的かつ強力に抑制されるという事実の発見や、1980年より台湾政府の招聘により手掛けた「台湾におけるPCB 中毒(油症)事件」においてPCBs の中に酸化物として超微量に存在するPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン、のちにダイオキシンとして注目される)が極度に免疫機能を低下させるという事実がその概念の必要性を後押しし、意を強くさせた。

 微量元素と免疫機能の毒性学的研究(免疫毒性学Immunotoxicology)に関する著書としては、国際的には昭和61年(1986年)に執筆し、1988年に出版された「Tin and Malignant Cell Growth」(単行本)(CRC Press、Boca、Raton、Florida、USA)の中で、「Chapter 9: Suppression of cell proliferation by certain organotin compounds.」が最初のものである。また、国内的には昭和60年(1985年)に「医学のあゆみ」(医歯薬出版)の「免疫毒性−環境汚染物質としての金属を中心に−」の中で執筆した「有機スズの免疫毒性」や、平成3年(1991年)に医薬品と環境化学物質を対象とした毒性試験講座 第10巻「免疫毒性」(地人書館)の中で第3章「金属の免疫毒性」を著したのが国内において「免疫毒性」という名のもとに出版された最初のものである。

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