アレルギーと微量元素|「生命と微量元素」講座<荒川泰昭>

「生命と微量元素」講座

アレルギーと微量元素

微量元素によるアレルギー

 「アレルギーと微量元素」:荒川泰昭、生命元素事典、オーム社 2006年

アレルギーと微量元素

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荒川泰昭

アレルギーと微量元素

 アレルギーとは、正常な人が摂取・接触・吸入しても全く無症状である物質に対して、微量でも鋭敏に反応する現象である。アレルギー症状には、1)即時型アレルギーと2)遅延型アレルギーがあり、前者には皮膚症状として蕁麻疹、呼吸器症状として喘息、鼻炎、消化器症状として胃腸症状が、また後者には皮膚症状として皮膚炎、湿疹、呼吸器症状として好酸球性肺炎、消化器症状として好酸球性腸炎などがある。
 アレルギーは、Coombs & Gell の分類1)に従えば、T型からW型に分けられる。T型アレルギーはIgE抗体と抗原との架橋、V型アレルギーはIgG抗体の関与する免疫複合体を介する補体系の活性化、W型アレルギーは抗原特異的T細胞因子と抗原との架橋を介して肥満細胞や好塩基球から各種ケミカルメデイエーター(chemical mediators)が遊離され、症状が発現される場合である。しかし、アレルギー症状の発現は上記のようなアレルギー性機序による場合以外に、各種因子が直接的に肥満細胞に働くか、あるいは補体系、キニン系、線溶系、自律神経系などを介して間接的に肥満細胞に働いて各種メデイエーターが遊離され、症状が発現される非アレルギー性機序による場合がある。

T 微量元素によるアレルギー
 微量元素、とくに金属はアレルギーに深く関わっており、その発症はアレルギー性機序による場合と非アレルギー性機序による場合がある。プラチナ、ロジウム、ニッケル、クロム、コバルトのような感作性金属は主としてT型アレルギー性機序により皮膚炎、鼻炎、喘息、結膜炎、蕁麻疹を起こす。しかし、ニッケル、クロム、コバルトのように必須金属で、反応性に富む遷移金属に属するものと、プラチナ、ロジウムのように貴金属と呼ばれる白金族元素とは感作性という点では大きく異なる。アルミニウム、バナジウムなどの金属は非アレルギー性機序により症状を発現させる。
 金属それ自体は分子量が小さく、したがって何らかの体タンパクと結合して抗原性を持つものと思われる。その意味から、金属はハプテンであり、血中あるいは組織中タンパクが運搬タンパク(キャリア−プロテイン)と想定される。ハプテンである金属がどのような運搬タンパクと結合し、あるいは体タンパクとどのように反応し、完全抗原となるのか、など詳細な分子機構については未だ明確でない点が多い。

U 金属接触アレルギーと全身型金属アレルギー
 金属アレルギーには、1)金属接触アレルギーと、2)全身型金属アレルギーがあり、両者の発症機序は全く異なるものであるが、3)全身性接触皮膚炎はこの両者の共通領域にあたるものである。すなわち、アレルギーの標的臓器である皮膚を例にあげれば、皮膚炎の発症は1)金属が直接皮膚に接触することにより誘発される金属接触アレルギーと、2)食品中の金属や歯科金属が口腔粘膜や消化管より吸収され、血流に乗り、皮膚へ移行し、発汗等により誘発される全身型金属アレルギーがある。
 ヨード、ニッケル、コバルト、クロムなどを多く含む食品や嗜好品の摂取はそれぞれ全身型の金属アレルギーを惹起あるいは憎悪する。また、歯科金属に含まれる水銀、金、パラジウムなどは口腔粘膜、腸管から吸収され、様々な歯科金属疹など全身型の水銀、金、パラジウムアレルギーを誘発する。
 全身型金属アレルギーの症状には、1)体内に摂取される金属により共通して惹起される皮疹として、汗疱状湿疹、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、貨幣状皮膚炎(歯科金属アマルガムによる)などがあり、2)体内に摂取される金属により憎悪する皮疹として、アトピー性皮膚炎などがある。また、3)プラチナ、ロジウムの白金族元素は皮膚炎、鼻炎、喘息、結膜炎、蕁麻疹の合併したアナフィラキシー反応を誘発するが、これはコバルトやニッケルよりもはるかに誘発しやすい。以下、代表的な金属アレルギーである呼吸器系アレルギーと皮膚アレルギーについて解説する。

V 呼吸器系アレルギー
 金属への暴露は主としてエアロゾール(粉塵、ミスト、ヒューム)という形で起きる。したがって、金属はまず気道に沈着し、気道感作を誘発する。
1.喘息
 職業性喘息を誘発する化学物質の多くは金属である。プラチナ、ロジウム、ニッケル、クロム、コバルトなどは主としてT型アレルギー性機序により喘息を発症させる。アルミニウム、バナジウムなどの金属も喘息を誘発するが、アレルギーを介するか否かの確証はなく、むしろ非アレルギー性機序によるものと思われる。
 喘息を誘発する先行因子としては、宿主側および環境側の要因が考えられる。宿主側の先行因子としては、アトピー性素因が重要であるが、他の要因として喫煙がある。プラチナ喘息ではアトピー性素因よりはむしろ喫煙の方が発症への寄与が大であるとされる。また、環境側の先行因子としては、金属の暴露形態や暴露濃度が重要である。コバルトの高濃度暴露は非アトピー性素因よりも感作されやすい。
 メッキ工にみられる喘息は蕁麻疹を併発するが、クロム吸入で遅発型の喘息発作を誘発する。この所見はアレルギー性金属喘息に対する細胞性免疫の関与を示唆している。
 感作性金属はアレルギー性喘息以外に、非アレルギー性機序による呼吸器障害を誘発する。ニッケルによる気管支炎、肺炎、肺癌、クロムによる鼻炎、鼻中隔穿孔、気管支炎、肺癌、コバルトによる間質性肺炎、肺線維症などが知られている。これら金属の呼吸器系粘膜に対する起炎症性や起過敏性によるものと思われる。

W 皮膚アレルギー
1.蕁麻疹
 一過性の限局性浮腫による膨疹が皮膚の真皮上層に生じたものが蕁麻疹であり、限局性浮腫が主として皮下組織や粘膜下組織に生じたものが血管浮腫である。これらを誘発するケミカルメデイエーターがアレルギー機序により遊離されるのか、非アレルギー機序により遊離されるのかによって、蕁麻疹はアレルギー性と非アレルギー性に分類される。ただし、蕁麻疹の多くはT型とV型アレルギーであり、即時型アレルギーである。また、蕁麻疹は通常アレルギー性接触蕁麻疹として、アレルギー性接触皮膚炎から区別されている。
 プラチナ、ロジウム、ニッケル、クロム、コバルトのような感作性金属は呼吸器のみならず、皮膚を感作し、即時型の蕁麻疹を誘発する。
2.アレルギー性接触皮膚炎
 接触皮膚炎は接触物質(contactant)の刺激作用による刺激性接触皮膚炎(非アレルギー性接触皮膚炎)とアレルギー機序によるアレルギー性接触皮膚炎とに大別される。後者の接触アレルギーでは、接触アレルゲンとなる金属はハプテンであり、反応が遅延型の経時変化を示すことから、遅延型(W型)アレルギーの一型とされる。クロム、ニッケル、コバルトなどの感作性金属は呼吸器のみならず皮膚を感作する物質で、アレルギー性接触皮膚炎を誘発する2)。コバルト合金の一種である超硬合金による喘息では、気道感作より皮膚感作の方が時間的に先行し、これが呼吸器アレルギーの要因であると推測されている。また、セメント皮膚炎にみられるアレルギー性接触皮膚炎はクロムによる遅延型(W型)アレルギーであるが、リンパ球活性化などの所見がみられ、細胞性免疫の関与が示唆される。
 接触アレルギーの機序としては、Langerhans細胞の役割、MHCクラスU(Ia)遺伝子による支配、T細胞の抗原認識機構、エフェクターT細胞のサブセット、活性化角化細胞keratinocyte(KC)やThy-1+DEC(dedritic epidermal cell)の役割などの関与が考えられている。
 まず、経皮侵入した接触アレルゲンのハプテンは生体由来の細胞外マトリックスや膜表面上のタンパクと反応して完全抗体となり、抗原提示細胞によりIa抗原と結合し、対応するT細胞に認識され、特異的T細胞が増殖・分化することにより接触アレルギーの感作が成立する。しかし、この接触アレルギーの誘導は経口摂取によっても同様の症状が誘発されることから、抗原提示がキーであると考えられる。また、T細胞により誘導される免疫・アレルギー反応は、CD4+のヘルパーT(Th)細胞により誘導されるDTHR(delayed type hypersensitivity reaction)と、CD8+のサイトトキシックT(Tc)細胞により誘導されるCTHR(cytotoxic type hypersensitivity reaction)に大別されるが、接触アレルギー反応の多くはTh細胞のDTHRに属し、さらにその主役はサブタイプであるTh1細胞とTh2細胞のうちTh1細胞であることが報告されている。

文献
1) Coombs RRA, Gell PGH: Classification of allergic reactions responsible for clinical hypersensitivity and disease. In : Gell PGH, Coombs RRA, Lachmann PJ, eds. Clinical aspects of immunology. 3rd ed. 176-781, Blackwell Publications: Oxford, 1975.
2) Fregert S, Rorsman H: Allergy to chromium, nickel and cobalt. Acta Derm Venereol 46: 144-148, 1966.

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