門司電気通信レトロ館(旧逓信省門司郵便局電話課庁舎)|「生命と微量元素」講座<荒川泰昭>

「生命と微量元素」講座

レトロ門司」復興への道

門司電気通信レトロ館(旧逓信省門司郵便局電話課庁舎)

門司電気通信レトロ館(旧逓信省門司郵便局電話課庁舎)(近代化産業遺産)

■ 歴史
門司における電話業務は、明治25年(1892年)門司郵便電信局として始まり、明治33年(1900年)10月8日 赤間関電話交換局門司支局 電話交換業務開始(本町3丁目) 、明治36年(1903年)4月1日 両局が合併し、門司郵便局が発足、大正6年(1917年)2月16日電話課を設置、大正13年(1924年)10月31日電話課分室庁舎新築(門司市東本町4丁目)という経緯を経るが、現在の「門司電気通信レトロ館」(旧NTT門司営業所)の建物は、この時に建てられた逓信省門司郵便局電話課新庁舎(門司区浜町4−1)である。
この庁舎新築は、電話交換方式の改良に伴うもので、従来の磁石式に代わり、共電式の電話交換機を新たに導入するためであった。竣工後、共電改式への機器の設置が進められ、翌大正14年(1925年)3月29日、共電式への切り替えと同時に新庁舎での業務が始まった。ちなみに、門司における電話交換の開始は長崎・福岡に次いで九州で3番目、また共電式の電話交換機の導入は福岡に次ぐ2番目であり、当時の門司が如何に繁栄し、重要な拠点であったかが窺える。

その後、昭和19年(1944 年)12月15日 門司電話局が開局し、昭和28年(1953年)9月26日局舎増築、(戦後の電電公社時代には、都市部以外でも自動交換方式(ダイヤル式)が普及し、各地の電話局で局舎の新築・改築が相次ぐが)、門司では昭和32年(1957 年)7月28日に自動改式を実施、そして、昭和35年(1960年)7月1 日に門司電話局と門司電報局が合併し、門司電報電話局が発足した。昭和43年(1968年)には庁舎の増改築が行われているが、平成元年(1989年)4月1日、民営化によりNTT西日本門司営業所に改称。民営化後も一時期はNTT門司営業所として使用されるが、平成11年(1999年)1月31日に門司営業所は窓口業務を終了して、館内1階に移転。しかし、それに先立つ平成6年(1994年)12月3日には、門司港レトロ事業に協和して、館内3階に「門司電気通信レトロ館」を開館する。以来、レトロ地区を代表する施設の一つとなっている。
設計は、逓信省営繕課(同省はかつて郵便・電信・電話・灯台などの事業を管轄した官庁で、その営繕課は戦前日本を代表する設計組織であった)の若手技師だった山田守氏が担当しており、氏の手掛けた初期の作品とされる。

以上のように、現在の「門司電気通信レトロ館」(旧NTT門司営業所)の建物は、逓信省門司郵便局電話課庁舎として、逓信省営繕課技師山田守氏の設計により、大正13年(1924年)に建設され、門司電報電話局、NTT西日本門司営業所として使用されて来た歴史的建造物である。
門司における最初の鉄筋コンクリート建造物であり、当時は非常に注目を集めたという。建物の外観は、東側と南側が道路に面しており、この2面には列柱を巡らせ、鋭角な南東隅は緩やかなアールで仕上げ、直線的な形状の列柱と曲線的な放物線アーチとを対比させた斬新な設計である。また、各面には玄関を1つずつ配されているが、正面玄関部には石造りで人間の顔の鼻のように見える庇と脇柱を設け、建物にアクセントを付けている。
この建物の魅力は、列柱の断面形状、そして玄関や頂部アーチなど、台形状の直線的なデザインが多用されるだけでなく、1階腰壁には滑らかな曲面の窓台を載せ、背面の入隅部を円筒状に突出させるなど、曲線や曲面も随所に用いられており、直線と曲線の相対する要素を上手く調和させていることである。

また、頂部のアーチ内側に見られる小さな穴は、当時の営繕課長・内田四郎氏が開発した流水防火装置(ドレンチャー)の放水口であり、建物全体を流水で覆うことで火災の際の延焼やガラスの損傷を防ぐ機能があり、昭和20年の門司大空襲の際にも実際に役立ったとのことである。

館内は、天井が非常に高く、トリックアートのように天井が斜めに見える空間もあり、遊び心ある設計で、洗練された大正モダンを伝えるレトロ建築のひとつとなっている。また、建物の前には、明治33年(1900年)10月に東京・京橋に出来た日本初の公衆電話ボックスの復刻版が設置されており。灯台をモデルにしたデザイン(レトロ調電話ボックス)で、港町らしいレトロな雰囲気を漂わせている。現在は門司電気通信レトロ館として、一階に大正から昭和にかけての懐かしい電信・電話機の展示コーナーが設置されている。

大正後期に、このようなモダンなデザインが、しかも地方都市・門司において建築されていたことは、逓信建築のレベルの高さも然る事ながら、重要な拠点でもあったかつての門司が如何に先端的気風と先進性の高さを持っていたかを物語るものである。

門司電気通信レトロ館

門司電気通信レトロ館

門司電気通信レトロ館

門司電気通信レトロ館

門司電気通信レトロ館(旧逓信省門司郵便局電話課庁舎 旧NTT西日本門司営業所)
■ 保存への道
▼ ルネッサンス構想の門司港レトロ事業に協和し文化的建造物として再生
大正13年(1924年)10月31日に建設された旧NTT門司営業所の建物が、北九州市の「北九州ルネッサンス構想」(門司港レトロめぐり海峡めぐり推進事業)に協力し、門司港レトロ事業に調和した文化的建造物として生まれ変わった。すなわち、平成6年(1994年)12月3日、建物の保存とともに、電信・電話を支えてきた古い設備やその時代を反映した貴重な資料を歴史的遺産として保存・公開する「門司電気通信レトロ館」が開設された。
▼ 館内施設
1階は、明治から現代までの電信・電話機を展示した博物館「電気通信レトロ館」となっており、明治4年から使用されたモールス印字電信機をはじめ、明治・大正・昭和にわたる電信・電話機器約380点など、公衆電話や携帯電話の歴史を展示するコーナーがある。また、非公開だが各種の自動交換機も保存されている。旧型の交換機に電話機を実装して会話が楽しめるコーナーや、電話のつながる仕組みを分かりやすく紹介したコーナーもある。
平成21年(2009年)2月6日、経済産業省認定の近代化産業遺産群・続33(17通信−北九州市の通信技術関連遺産)に、建物および所蔵物が認定された。

平成28年(2016年)5月21日には、所有者であるNTT西日本(西日本電信電話株式会社 本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:村尾和俊)により、更なる「電気通信技術への理解促進」および「地域振興への貢献」を目的とし、一部がリニューアルされた。すなわち、館内の展示史料整備および充実化を図るとともに、地域住民との交流スペース等に活用予定の、広さ約80m²のコミュニティスペースが新設された。
<資料:中学同窓・稲佐重正君提供>
<写真:中学同窓・田中文君撮影>
参考資料:1.ルネッサンスの知恵 第3号 門司港レトロヘの道すじ 財団法人北九州都市協会(平成14年2月)、2.北九州市新・新中期計画 北九州市(昭和55年4月)、3.ポート門司 21 北九州市職員研修所(昭和57年)ほか

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