感染初期より半年間を総括 −諸悪の根源は「人の移動/接触」に対する「先見なき対応」−|「生命と微量元素」講座<荒川泰昭>

「生命と微量元素」講座

感染初期より半年間を総括!

A summary of six months from the early days of infection in Japan

諸悪の根源は「人の移動」に対する「先見なき対応」  2020.7.20

The root of all evil is an initial response with no foresight
on “the movement of people”
■ 諸悪の根源は「人の移動」に対する「先見なき対応」
新年早々、国際会議の特別招待講演で訪れた中国・武漢で、新型コロナウイルスが発生したとのニュースが入った。武漢での感染者は当初1月2日までに41例、1月20日には計198例となり、この時点では、武漢以外の地域での3例に、日本1例、タイ2例、韓国1例の輸入例4例を合わせて205例(内、死亡者3例)の感染者が確認された。感染においては、この時期での「迅速な対応」が最も重要であるが、その後の初期対応は、衛生・公衆衛生の予防医学を本職とする者にとって、余りにも拙悪なるものであった。

ウイルス感染の拡大は「人の移動」が全てであり、その防止には「初期対応」が全てである。しかも、感染災害の大小は、「リーダーの智愚の差」に依存する。事実、不幸にも人の移動に対する「先見の識あるいは慧眼」なきリーダーを持つ国々では、愚策・後手策の連鎖で、ウイルスを全土に蔓延させ、取返しのつかない深刻な事態を招いており、優れたリーダーを持つ国々では感染への初期対応が速く、迅速・短期・集中の理に適った阻止対策(封じ込め)により、感染拡大を抑え、早々に新規死者ゼロを維持している。ウイルスを国内に招き入れ、全土に拡散させてからでは「後の祭り」で、ワクチンや特効薬が無い限り、国民はその始末(ウイルス禍)に翻弄され、疲弊する。結果、予期せぬ死者を出す。「成るべくして成る」である。

大学の講義の初講で話すことであるが、社会医学を扱う衛生学の理念は、アポロ神話の中の、予防の神ハイジア(医薬の神アスクレピウスの子)による「生命を衛り、生活を衛る」の理念に始まり、現在では「予知予見に基づく予防対策」を真髄としている。すなわち、私の在籍した衛生学教室では、初代・緒方正規教授、北里柴三郎助手、森鴎外らが在籍した明治時代においては伝染病が対象の「後追い対策」であったが、現在では社会的要求を背景に、環境衛生、生活習慣病、健康増進、リスクアセスメントなどが対象の「前向き対策」を衛生学の真髄としている。リーダーたる者には、この衛生学の神髄「予知予見に基づく予防対策」、すなわち「前向き対策」「先取り対策」を帝王学の一つとして会得し、「先見の識あるいは慧眼」なる資質を有して欲しいものである。

諸悪の根源は「人の移動」に対する「先見なき対応」

中国武漢発生・新型コロナウイルスの初期拡散
■ 日本の感染初期より半年間を総括
感染初期より現時点までの半年間を纏めると、残念ながら、日本では、感染初期の「人の移動」に対する杜撰な「先見なき対応」(含・水際対策での大失態)、軽症者・無症状ウイルス保有者無視の「検査の抑制」、迅速・短期・集中の「検査と隔離」の徹底不全、「検査隔離体制治療体制」の両立/確立の未完、そして「その場凌ぎ」の愚策・後手策の連鎖にみる「危機管理能」の欠如が、感染拡大を顕著化させ、国民生活や社会経済に無駄な混乱と負担を強い、国民や国を翻弄、疲弊させ、尊い命を奪うに至らしめた。

とくに、死者を発生させた責任は重大であり、その責任は、数値ではなく、「個の存在と尊厳」に重きを置き、敬意をもって論じられるべきである。然るに、日本は、米国と同じパターンで、未だに死者が増え続けており、現時点で死者総数は一千人に迫る勢いである。「素早い初期対応」と「迅速・短期・集中」の理にかなった「検査と隔離」を徹底し、早期より新規死者ゼロを呈している韓国、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどの東アジア・西太平洋死亡低値諸国に比べ、日本は最悪である。

現時点までは、何とか国民の「知恵と忍耐と真面目さ」が愚策による大失態から当面の窮状を救っているが、今後、防疫(命)と経済との両立で、浅短鈍智なる愚策を講ずれば、感染爆発の後続波襲来も必然であろう。

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